探偵の寿命
- blackknight3214

- 2019年7月14日
- 読了時間: 6分
今まで私は先達の探偵で例えば飢えた狼のような探偵、あるいは痩せた野良犬のような探偵を何人か見てきた。
意味合い的には小汚い、卑しいという事ではなく、それくらい獲物に対して執着し
必ず仕留めるという猟犬のような心意気を持った根っからの調査員気質の探偵という意味である。
このようなタイプは業界では尊敬され名声を得るものである。

だがそのような者たちも
大体43,44歳位からその勢いが衰え
行動調査(尾行張り込み撮影を主とする調査)において以前のような鋭さや粘りがなくなりスランプというか失敗を多く犯すようになる様も見てきた。
私もいよいよそのような年齢に差し掛かり
最近自分が無理な運転や長時間の調査に対して躊躇しだしていると感じることがある。
私ですらそれは例外ではなかったのだ。
前例を踏まえると探偵業界において活躍できる調査員の限界年齢は
45歳位と言うことになる。
これを伸ばすことができれば良いのだがなかなかそうも行かない。
そういえばイチローも最近引退した。
この衰えがどのような理由で起こるのか
なぜ皆一様にそうなって行くのか
男性の更年期というのにあたるからなのか
それとも長年危険な行為を繰り返して気持ちが衰えるのか
単純に加齢から来る身体能力、神経の伝達速度、反射能力の低下なのか
あるいはそれらが複合して起こるのか
理由はわからないが結果として皆そのようになっていく。
私は気持ちが弱くなることが一番の原因と感じる。
つまり老人になれば誰でも丸くなる。
というのに似ている。
しかしまぁ私もそうで
おそらく周りもみんなそうだと思うが大体30代後半位からどの業界でも
まじめに働いてきた人間は
業界内での地位を確立し
収入も増え
生活も安定し
人生が軌道に乗ってくる。
そして探偵業界では大体40前後くらいのころにこのようなピークを迎え衰えていく。
ある程度の才覚があるものなら
この辺のタイミングで自分は裏方に回り調査を若手に任せる。
しかし昨今はなかなか人材もおらず(業界全般的に人手が不足しているのだが)
1人親方が多いこの業界ではそうなることが難しい。
例えば不運にも集金目的の探偵学校などを出て独立したり
探偵社に2年も勤めずに功が成ったと勘違いして独立したりで
最初からつまずいて探偵業界から去り他業種に移る者も多いが
結局うまくいっていても
先ほど述べた衰えを理由に探偵業界から去らなければならない可能性が高い。
それだけ厳しい世界である。
私は何とかしてこの自分の探偵としての寿命
(これは広い意味ではなく、狭い意味での調査員と言う意味合いである)
この寿命を伸ばすべくいろいろな健康法やアンチエイジングを試してきた。
※機会をみてこれらも後に記す。
探偵業に勤める人間というのはとにかく体と精神を酷使する。
身体も精神も壊れる前ならちょっとした休養やストレス解消や気晴らしで回復するが
壊してしまうと回復が難しい。
あるいは回復しない。
精神などは壊している本人はまるで自覚がないのだからタチが悪い。
調査員が壊す箇所と言えばやはり腰あるいは首あたりではないだろうか
理由は明白で長時間車内での張り込みによる腰椎、頚椎への負担。どちらかを痛めればそれに連なり両方痛める。
さらに体をほとんど動かさないことによるロコモティブシンドローム
これらに関してはどうやってもどうにもならない部分があるので、単純に調査稼働時間を減らすしかない。
しかし売れている探偵はそのようなわけにもいかない。
タクシーの運転手のように車から降りて背伸びやらストレッチやら軽い運動やらを
できれば良いのだが
この業界では長時間車から全く降りられないことが多々ある。
私もひどい時は体が本能的に座ることを拒否あるいは
車に乗ることを拒否していた時期があった。
それほどに体を酷使する。
対処法としては
椅子の位置を変える。
着席時の姿勢を変える。
休日に気が狂ったかのように運動する。くらいしかない。
ロコモティブシンドロームの原因だが単純に動かないのに食事をとるからである。
調査中に多大な集中力を必要とするため体はエネルギーが必要ないのに
脳にエネルギーが必要なので俗にいう『甘いもの』を過食しがちになってしまう。
「張り込みにあんぱんと牛乳」の「あんぱん」とはつまりこのことである。
これを避けるためには食べるものを選ぶしかない。
私はいろいろ試したがスルメイカあるいはチーズが向いていた。
(こんにゃくゼリーも一定期間試したが、2袋開けたくらいからとんでもない便意にいきなり襲われるのでやめた^。^;)
素行調査時のストレスに関しては複数名で調査をする際に
相方などに対して気をつかってしまったりなど、直接調査に関係のないところで消耗していく事がある。
人は人がそばにいるだけで気をつかってしまうものなので
このようなストレスを減らすために1人で調査をすることを好む者もいる。
もちろん1人で行うにはそれ相応の技量が必要である。
このことからベテラン探偵の中には1人でやったほうが楽だという者も多い。
当流でも1人で調査を行うことを信条としている。
精神面のケアに関しては個人差が大きい。
探偵業界内では私が見てきた限りでは 酒 異性 贅沢品 に走る者が多い。
張り込み中に他社の探偵に愚痴電話をかけまくる者も多い。
まあ、そういうのは人の勝手なので否定はもちろんしない。
ただ酒に関しては、翌日仕事なのに二日酔いでフラフラになってくる者がたまにいた。
そのような者はやはり干されていった。
身内に迷惑の掛からない範囲ですきなようにストレス解消すればよい。
探偵術とはある意味『総合的な生存技術』でもある。
このあり方は単純なサバイバル術と言うことではなく
地上でどのようにしてでも『自信と誇りをもって』生きて行くための技術である。
当流ではそのように考えている。
初心の者は『まずは実力つけて独立してやっていく』ということを念頭に考えてよいが
その後
探偵業界の中で長く生きていける事が重要である。
探偵業に限らず
一瞬だけ儲かったがすぐに終わった。
というのでは意味がない。長く長く続かなければならない。
私の知人に俗にいう裏の仕事で一攫千金を得た者がいるが
その後、重病にかかりその千金を自由につかえない身体になったものがいる。
その者は「金は要らんから健康な体が欲しい」と口癖のように言っていた。
また経済犯などの思考は
「懲役2年くらいいって1億残るならラッキー。だって2年働いて1億も金が貯まるわけないやん」
といった感覚である。
これは体を壊すなどとは思っていないし無期懲役、死刑などにはならないとわかっているからこの思考にたどり着けるのである。
ほとんど元手もかからず、店舗もいらず、高価な機械や難度の高い専門資格などが必要ない探偵の資本はまず
健全な身体と快活な頭脳
である。
探偵業を長く続けることが出来れば
学歴職歴資格なしで32歳以上
みたいな現代日本社会ではもうどうやっても浮かべないというような者でも
経済的にはある程度まともなレベルには達せられる。
その為には初心のころは「明日死んでいても良い」という心構えで
仕事に打ち込むことが重要だが
功が成った後はその先の事も考えていかなければならない。
そうしなければ私の先達のように30~40歳代までは
腕が良いと評判の探偵だったのになぜか辞めてしまった。
結局、商売人に利用されて使い捨てにされてしまったのだ。
という末路が待っている。








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